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インタビュー 2026.2.6

【急成長を続ける品川区のスタートアップ特集】休日の自主プロジェクトが、事業になるまで。ロボットの遠隔操作支援サービスを提供する株式会社キビテク林代表に、創業から15年間の歩みを聞いてみた

キビテク社

2025年11月に15期目を迎えた株式会社キビテクは、これまでに累計10億円を超える資金調達を実現し、成長を続けています。

東京大学大学院 情報システム工学研究室(JSK)出身者が、どのようにロボット遠隔操作支援サービス「HATS」の開発へと至り、その先にどんな未来を見据えているのか。株式会社キビテク代表取締役CEOの林摩梨花さんに創業のきっかけや、ブレイクスルーのポイント、今後の成長戦略についてお話を伺いました。

(プロフィール)
林 摩梨花さん    株式会社キビテク  代表取締役CEO
東京大学大学院情報システム工学研究室(JSK)にて学際情報学博士課程修了。三菱電機株式会社を経て、2011年に株式会社キビテクを創業。情報処理推進機構(IPA)より「未踏スーパークリエータ」に認定。「ロボット、AI技術を通して、心の幸せを増やすこと」「技術者の好奇心を、社会問題の低減に積極的に繋げる器であること」を目指し、遠隔制御プラットフォーム「HATS」の開発と事業拡大を牽引している。

 

どんなロボットでも、どんな現場でも。導入から保守・運用までをスムーズにするHATS

――現在の事業概要と、主力製品であるHATSについて教えてください。

林 摩梨花

当社はロボットを制御・管理するクラウドサービス、HATSを展開しています。HATSは、ロボット導入の検討段階から実際の稼働、その後の保守・運用までをトータルでサポートするパッケージ型の支援サービスです。
具体的には、自律的にロボットが働くようにしたり、複数のロボットが協調して動くようにしたりといった機能があります。また、遠隔で制御・復旧できる機能も特徴の一つです。現在は、工場や倉庫の自律フォークリフトや搬送ロボット、点検ロボットを中心にサービス提供を進めています。

――HATSの強みはどこにありますか?

林 摩梨花

メーカーや機種を問わず様々なロボットを統合管理できることが強みです。これまで200種類以上のロボット開発に携わってきた経験があるため、多種多様なロボットの一元的な制御・管理を実現できます。手掛けてきたロボットの種類でいうと、おそらく国内トップクラスの多さだと思います。
さらに、新しく発売されるロボットのソフトウェア開発にも先駆的に取り組んでいるので、対応範囲は広がり続けています。リリースしたてのロボットの使い方を模索することは、メーカーにとっても、導入を検討する企業にとってもメリットのあることです。当社が開発するソフトウェアは、顧客のロボット運用を支えることはもちろん、メーカーの製品にプリインストールされるといった形での横展開も進んでいます。
現場では、ロボットの数も種類もより増えつつあります。多くのロボットに対応できるHATSを活用することで、効率的に業務を改善できると考えています。

――遠隔で制御・復旧できることのメリットを教えてください。

林 摩梨花

ロボットを活用した業務の自動化においては、95%ほどまではすぐに到達できても、残りの5%の精度を上げることに手間がかかります。従来は、エンジニアが現場に張り付いて細かな調整をするのが当たり前でした。
それに対し、遠隔地のオペレーターが映像を見ながら操作を行うのが当社のモデルです。運用開始までのスピードが上がることはもちろん、もし運用中にロボットが予期せぬ事態で停止しても、すぐに遠隔で対応できるため作業がストップしにくいというメリットがあります。

試行錯誤の7年を超えて。ミッションの明確化が、資金調達実現のきっかけに

――創業に至った経緯を教えてください

林 摩梨花

きっかけは、独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)の「未踏事業」という人材育成プログラムです。当時はメーカーの研究所に勤めながら、土日に個人の活動として参加していました。1年ほど活動した後「このメンバーと一緒に働きたい」と考えるようになり、2011年に創業しました。当初のオフィス兼ラボは、トイレは和式でお湯も出ないようなところ。小さな工場物件からのスタートでした。

ーー創業から最初の資金調達まで期間が空いたとお聞きしました。

林 摩梨花

創業後は受託開発を中心に事業をしていましたが、資金調達を実現し、本格的にスタートアップとして動き始めるまでに7年ほどかかりました。試行錯誤を繰り返した期間だったと思います。今振り返ると「こんなプロダクトがあったら面白いんじゃないか」という技術的な好奇心が先行していましたね。そうなると、どうしても発想のスコープが狭くなり、ビジネスとして成り立つアイデアが出にくい傾向にありました。
また、ロボットそのものではなく、運用・管理という目に見えにくい機能を提供しているため、ユーザー企業への説明コストが高いという苦労もありました。市場のリテラシーがまだこれからという中で、価値を伝える難しさを感じた期間でした。

――どのようにしてその状況を打破したのですか?

林 摩梨花

きっかけは私自身の産休・育休でした。一度実務から離れ、真っさらな気持ちで「子供の世代のために、どんな未来を作っていくか」という問いと向き合う時間が増えました。その中で、格差のない社会を目指し、困っている人を救いたいというミッションが明確になったのです。ミッションからブレイクダウンする形で事業を構想したことで、あらゆる戦略や機能に一貫性が生まれました。これが、資金調達を成功させるポイントになったと思います。

 

技術者の好奇心を、社会課題の解決へつなぐ

――ミッションは事業にどのような影響を与えましたか?

林 摩梨花

格差を減らし、社会の公平性を保つには、富の分配を再設計する必要があります。そこで私は、国境を越えたリモートワークを実現することで、世界中の人々が場所を問わず働ける公平な仕組みを作りたいと考えました。その手段が遠隔制御技術だったのです。同時にこの技術は、エンジニアがいなければ管理運用できないというロボットを活用する現場の課題を解決するものでもありました。社会を見渡す視野と、現実的な技術者としての発想が合わさった場所がキビテクの領域になりました。

――組織のメンバーや内部体制についても教えてください

林 摩梨花

現在、制御系の開発ができるエンジニアを中心に45人ほどのメンバーがいます。多様なロボットの開発ができる当社の環境はエンジニアにとっても魅力であり、技術的な興味を突き詰める人材が集まってきています。また、およそ半数が海外のメンバーです。日英どちらも対応できる人材をマネジメント層に配置することで、組織のコミュニケーションの課題も解決しています。

 

技術は手段。その先にあるミッションが共感を生む

――品川区に拠点を置いている理由を教えてください。

林 摩梨花

スタートアップとして活動する上で、さまざまな関係者との打ち合わせを考えると、都心へのアクセスが良い拠点を持つことは重要です。
一方で、ロボットの開発にはある程度広いスペースを持った物件が必要です。その両立ができる場所として、品川区を選びました。現在は川崎市に倉庫(開発スペース)がありますが、そこへもすぐに行ける距離感であるという点でも、大崎という立地は非常にバランスがいいと感じています。

ーー今後の展望についてどのように考えていますか。

林 摩梨花

一つは、協業・連携の拡大です。具体的には、製造業や倉庫業など現場をお持ちの企業や、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の方々との連携を強めていきたいと考えています。また、最近注目されている「フィジカルAI」の領域でも、AI技術を持つ企業とタッグを組むことで、相乗効果を発揮できるはずです。さらに、自治体とも配送や配膳ロボットの導入実験などで連携の可能性があると考えています。

もう一つはIPOです。現在、数億円規模の調達に向けて動いております。上場を見据えて、決算期の変更や内部体制の整理などの準備を進めている最中です。

――最後に、起業やスケールを考えている人へアドバイスをお願いします。

林 摩梨花

これから起業を志す方、特に技術者の方に伝えたいのは「自分の人生を何に使うか」というミッションを、なるべく早い段階で言葉にしてほしいということです。私自身、最初の7年間は好奇心だけで走りましたが、ミッションが見つかってから事業の速度は劇的に変わりました。技術は手段であり、その先にある社会をどう変えたいかが共感を生みます。品川区にはその挑戦を支えるコミュニティがあります。一人で悩まず、想いをぶつけられる仲間を見つけてほしいなと思っています。

執筆者

エディターチーム

インクデザイン株式会社

わかりやすく、おもしろく。経営の課題をデザインの力で解決する、デザイン・コンサルティング会社です。

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