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インタビュー 2021.1.21

品川区での立地の利点と支援制度を活かしたベンチャー企業の経営 株式会社エンベック

スタートアップというと「大きな夢を描いて、一攫千金を狙う」というようなイメージを抱くこともあるかと思います。しかしその一方で、現実的な視点を持ち、確実なニーズを抑えることで、堅実な経営を行っているベンチャー企業も多く存在しています。

今回は、品川区のさまざまな支援制度や立地の利点を活用しつつ、工業用コンピュータ部品の設計製造を手がける、エンベック代表の堀之内博紀様にお話を伺いました。

 

工業用コンピュータの部品製作をファブレスで行う

 

-はじめにエンベックさまの概要についてお聞かせください

堀之内

エンベックは、EPS(エレクトロニクス・パッケージング・ソリューション)を提供する技術集団です。グローバル・スタンダードのシャーシ、いわゆる工業用のコンピュータの部品の設計、製作を専門に行っています。工業用コンピュータは、一般家庭で使われるコンピュータと似ているように聞こえますが、特定の産業用途のニーズに対応できるコンピュータとなりますので、例えば24時間365日過酷な環境下でも稼働し続けられる耐久性が求められるケースであったり、10年―20年と長期利用可能なケースなどがあります。

 

またその用途に特化した、専門性の高い機器が必要になります。例えば医療用のCTスキャナーやMRIというような機器は、国内に数千台しかないため、その部品の市場も少量でありながら、確実にそのニーズが存在する市場と言えます。一方で医療に限らず、工場でのロボットや鉄道、測定器、航空宇宙など最新の技術・ソフトウェアが求められる幅広い分野で工業用コンピュータのニーズがあるため、そのマーケットニーズに対応できるハードウェアの調査や活用のノウハウを磨いていくことで、市場の揺らぎに耐えられるような経営を行っています。

-創業の経緯について教えてください

堀之内

2011年4月に創業して、今年で10年目を迎えます。もともと外資系のメーカーでエンジニアとして勤務しており、設計を担当していました。しかし2008年のリーマンショックの影響で、製造業は壊滅的な被害を受けました。勤務先の会社内でも業務再編が行われ、私が担当していた業務も再編の対象になってしまいました。それによって、今までやってきたこととは全く違う職種に移る可能性が出てきました。私としてはこれまで携わった製品の仕事を担当したかったため、そこから退職する準備を始めました。

 

そのような中で、運良く、一緒にビジネスをしようと言うお話を海外メーカーより頂きました。社内に残ることはできませんでしたが、同じ製品の仕事ができるとあって、私は独立して同じ製品の仕事を継続することにしました。2008年の業務再編から、実際に創業するまで3年ほどラグがありますが、これは家族の理解を得るためと子供の教育に対して起業による経済的なリスクを影響させないためとして時間を置いたと言う判断でした。

創業支援施設を活用し最低限の投資で創業

 

-品川区との関わりについて教えてください

堀之内

もともと自宅も品川区内でした。会社員時代は横浜や都心に通っていましたが、創業は通勤に時間をかけるのは効率が悪いと考え、自宅近くでと考えていました。自宅での創業も考えましたが、ビジネスとプライベートはきっちり分けたい性分だったこともあり、入居できるオフィスを探しました。その時に出会ったのが、西大井創業支援センターです。

 

創業支援センターでは、さまざまなスタートアップ企業が入居しており、他の経営者の方々と情報交換などもしながら、創業期の3年間をそこで過ごしました。当時のセンター長の方に、創業時の実務的なアドバイスから、いいことばかりでなく、注意すべき点・辛いこと・先輩起業家の成功・失敗談等々も教えてもらいながら、会社としての基礎を築きました。2015年には同じく品川区内の大崎にある品川区創業支援センターSHIPが完成し、広さが二倍になったオフィスへ移動。4年半ほど入居したのち、さらに広さが三倍になった現在の天王洲創業支援センターの空きが出たためこちらへ移動し、現在に至ります。

-品川区で創業するメリットについて感じていることを教えてください

堀之内

弊社が創業以来入居してきた3カ所の施設は、すべて品川区が運営する創業支援施設です。そのため家賃が安く抑えられることが魅力の一つと感じました。コピー機や会議室など、会社として必要な設備も備え付けられており、郵便物を受け取ってもらえる総務的な業務なども対応してもらえるので、会社のリソースを本業に専念し、済ませることができます。

 

また創業当時は、区役所や銀行、社会保険事務所、法務局、都税事務所などさまざまな公的機関とのやりとりが必要です。後で気づいたことですが、10年前はまだオンラインで取り寄せができなかったので、印鑑証明書・謄本・納税証明書など、取りに行くことは業務の負荷となりますが、自宅とオフィス、こういった公的機関との距離が近ければ、それだけ時間のロスも少なくすみます。幸い自宅が品川区内だったことに加え、区役所や法務局・都税事務所が近くに立地し、契約している税理士さんも同じ品川区内だったこともあり、コンパクトな空間の中で創業期を乗り切ることができました。なかなかこのような立地の地域は無いので、品川区で創業してすごく良かったと思いました。

創業期に欠かせない金銭的支援も充実

堀之内

金銭的支援も魅力の一つです。品川区ではスタートアップに関わるさまざまな助成金が随時提供されています。弊社でもISO取得の助成金や、展示会出展・動画制作等に関する助成金を活用させていただきました。また融資あっ旋制度もあり、特に創業期に利用した融資制度は全国的に見ても金利がかなり低く抑えられていました。当社はこのような支援制度を上手く活用できているほうだと思いますが、創業期にはなるべく無理をせず着実に事業を作ることが重要なため、大変助かりました。

 

品川区は交通の利便性も特徴的な土地といえます。とくにこの天王洲は、品川駅や羽田空港から近いため、新幹線や飛行機へのアクセスが便利で、首都圏だけでなく全国各地の企業さまへの出張がしやすくなっています。

-最後にこれからスタートアップをしようとしている方に向けてメッセージをお願いします。

堀之内

スタートアップというと、大きな夢を描くイメージが強いですが、経営というものは甘くはないと思います。一人でできることはないか?と考え、経験したものや得意なものを組み合わせて、なおかつ現実的に行うべきだと私は思っています。

 

なかでも情報検索のセンスを磨くことはおすすめです。自分がこれから設計・製造するもので、世の中の誰も設計・製造したことがないということはまず無いと思ってよいと思います。世の中の誰かが既に、経験し、その体験を記事や動画としてWebサイトに既に上がっていると思って間違いないと思います。そのため動画でも記事でもいかに効率よく、正しい情報を見つける人のほうが生産性が高いと言えます。そういった意味では昔に比べて、これからの方が創業はしやすい環境になっているのではないかと思います。一方で自分ができないことや不得意なことは費用を払って、割り切ってでもアウトソーシングすることも大切です。

 

また会社員時代以上に自分の身体が資本といえます。まず心身の健康を第一に考えて、ストレスなく楽しく働ける分野で創業することを強くお勧めします。好きなことでないと続きません。夜遅くまで働く場合も創業時にはありますがストレスさえ無ければ時間を忘れてしまいます。また、余裕を作るためにストレスは極力排除するよう心がけるのも重要かと思います。また、周りの方々にも配慮し、心配を掛けないようするためにもストレスを排除し、余裕を作ることで、ビジネスパートナーにも安心してもらえると考えています。

-ありがとうございました。

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