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インタビュー 2021.6.16

SHIP→天王洲創業支援センターと、品川区のリソースを活用して成長中の、教育工学理論に基づく人材育成ビジネスについて聞いてみた

感覚的に行われがちな企業教育に、学術的なビジネスパフォーマンス評価を取り入れ、データに基づく人材開発を提唱している、リープ株式会社。製薬業界のMR教育・育成を主軸に、多くの企業から信頼を勝ち得てきました。

代表取締役の堀貴史さんは、社会人入学での学びをきっかけに、人材開発における「見える化」が可能なことに気づき、起業につなげたといいます。その創業の経緯や、経営の苦労、また、品川区の創業支援施設を活用される効用などについて聞きました。

 

(プロフィール)

堀 貴史さん リープ株式会社 代表取締役

明治大学商学部卒業後、製薬会社にてMR職に従事。マネジメント経験や本社部門での経営企画・マーケティング経験を経て、製薬企業に人材をアウトソースする企業等で人材開発業務に従事。2014年、産業技術大学院大学(現、東京都立産業技術大学院大学)創造技術専攻に社会人入学。2016年同大学院を修了。在学中の2015年6月リープ株式会社を設立。

学術的なパフォーマンス評価により、人材教育のプロセスを見える化

 

―リーブでは、どのような事業を展開されているのですか

企業の人材育成、企業教育のコンサルテーションを行っています。従来、この分野は「勘・経験・度胸」に頼りがちで、無駄な教育研修や非効率な人材育成が散見されていました。研修はあまり意味がない、などと言われるのも、その弊害でしょう。そこでリープでは、科学的な根拠に基づいた、戦略的な教育研修・企業教育を行うことを提唱しているのです。

そのベースとなるのが、教育工学のインストラクショナル・デザインという学術理論です。欧米では、この考え方に基づくパフォーマンス評価指標「ルーブリック」を活用したトレーニングが多くの企業で導入されていますが、日本では大学教育くらいにしか用いられていません。これを企業教育にも普及させ、戦略的な人材育成の実現を目指しています。

―評価というと、人事考課で用いられるものでしょうか。

人事考課で用いられるのはコンピテンシーといわれる、ある職務や役割において優秀な成果を発揮する行動特性になります。一方、リープが扱うのは、営業等の業務で成果を出すためにどういうパフォーマンスを発揮していけばよいのかという、プロセスベースの評価指標になります。つまり、その点数の高い人は成果が出せると担保されるような評価指標を作るわけです。これは、教育の達成度を測るためのもので、人事考課とは切り離して考えられるべきでしょう。

ですから、この評価指標については、たとえば営業担当者の教育を司る部門などがお客様となります。なかでも、MR(Medical Representative:医薬情報担当者)といわれる営業担当者の教育に熱心な製薬業界がその対象としては大きく、当社でもお客様の6~7割が製薬企業となっています。

―堀様ご自身も製薬会社のご出身で、MRもご経験されていますね。

そうなのです。社会人となって最初の仕事で、約20年前のことですが、営業技術を磨こうにも指導されるのは感覚的な事柄が多く、戸惑ったのを覚えています。その後、自身でもマネジメントを経験したり、MR派遣などアウトソーシングを担う会社に転職したりしたのですが、その営業センスや感覚といったものを科学的に言語化できないかというのは、根底でずっと考えていました。

生産工学系の理論から気づきを得て、ビジネスの種を形に

 

―創業に向けての転機は、何だったのですか。

産業技術大学院大学(Advanced Institute of Industrial Technology:以下、AIIT)に社会人入学したことですね。実は40代に入って転職した先が人材開発系ベンチャー企業だったのですが、それまでのサラリーマン社会的な風土から一転して、自身のスキルや存在価値というものを強く意識するようになりました。そこで、MBA(経営大学院)で学ぶことを検討していてAIITを知り、品川区の品川シーサイドと通学にも便利で、平日夜間や土曜に学べるのが決め手となりました。後に、品川区の創業支援施設をベースに起業することになりますが、品川区とのご縁ができたきっかけともなったと思います。

そして、そこでの学びが起業につながる事業のヒントとなりました。たとえば、数理的な統計解析やビッグデータ解析などを扱う品質工学や信頼性工学の授業から、能力開発における課題を明らかにする評価・分析手法の開発や、人間中心設計をはじめとするものづくり、ことづくりのデザイン手法を人材教育のトレーニングに応用することなどを思いつきました。

―科学的な言語化、と言われていたものの、基礎知識を学べたのですね。

そのとおりです。また、カリキュラムの2年目で、複数人のチームで実際の業務に近い1つのプロジェクトを完成させていくのですが、そこで現在のビジネスの種を形にできました。考えたサービスを実際に製薬会社の方などに見てもらうと手応えも感じられ、いろいろと条件が重なって、在学中の2015年6月にリープを設立しました。

当時勤務していたベンチャー企業の同僚である、荒木恵がリープの共同代表として一緒に起業したのですが、彼女はインストラクショナル・デザインを熊本大学で学んだ専門家です。もともと製薬企業における人材開発経験を持ち、理論を実用化する術を学んだ私とタッグを組むことで、起業が現実的なものになったということでしょう。性格的にも、日頃から感覚的に物事を進めるタイプの私と、理屈やプロセスを重んじる荒木とで、バランスが良かったように思います。

―起業はどのように進められたのですか?

大きいのは、AIITの川田誠一学長が理事長を務める「品川ビジネスクラブ」を通じてのご縁を得られたことですね。このクラブは、会員である中小から大手企業、大学、産業支援機関、金融機関、官公庁、学生、研究機関等が品川区と連携してつながり、新規ビジネスの創出を目指していくプラットフォームです。

ですから、在学中から起業についていろいろと相談できました。そうしたアドバイスからオフィスも、オープンラウンジや多目的ルームなど、インキュベーション機能を持つ品川産業支援交流施設のSHIP(SHinagawa Industrial Platform)に決め、当初入所しました。そのように、品川区のリソースについての情報が集めやすく、良い形で事業を始められたのは、大きなメリットだったと思います。

品川ビジネスクラブなど、創業者コミュニティで安心と刺激を得る

 

―創業されてから、2020年現在で6期目を迎えられていますが、事業は順調でしたか?

創業当初は、私自身の製薬企業とのネットワークもあり、商談をさせていただける機会には事欠かなかったのですが、1年経つと、話は聞いていただけるものの、その先に進むことがパタリと途絶えてしまったのです。それまで、いかに会社の看板や周りの方々のご協力で仕事をさせていただいていたのかを改めて突きつけられた思いでした。独立した以上は、やはり、自分たち自身で信頼を勝ち得ていかなければならないわけです。

それで、1期目を無事終えられるのかと、まさに薄氷を踏む思いでしたが、奇跡的に、ある1社の製薬会社が積極的に採用を検討くださいました。さらに幸運だったのが、弊社のコンセプトに共感頂き、人材育成の仕組み作りを一括で受託それで腹が括れて、この先もがんばろうと思えました。

―そうして、現在に至られているわけですね。

そうですね。企業教育ですので基本的に長くお付き合いをいただいており、定常の取引社数としては20~30社でしょうか。当社からも新たな科学的アプローチによるサービスや追加機能をリリースしたり、また、お付き合いの中でお客様の新たな課題が見つかって対策を考えたりなど、常にサービスをブラッシュアップさせています。

当社の組織としては、共同代表2人で始めたものが、6期目の今はインターンシップの学生も含め、10名強となっています。コンサルタントやアナリスト、サポートといった、それぞれの役割で、メンバーの育成が目下の課題ですね。創業当初は共同代表の2人が汗をかけば済んだともいえますが、今は組織としての運営体制も考えるフェーズです。

―オフィスは、一貫して品川区の創業支援施設を活用されています。

創業時にSHIPに入居させてもらったのは良かったですね。都心でアクセスの良い場所を手頃な費用で使うことができました。また、インキュベーションオフィスなので、企業同士の交流が活発なのも特徴。新たなお取引や連携、サポートなどに結びつきやすいところがあります。

現在は、やはり品川区の創業支援施設の1つである、天王洲創業支援センターに入居しています。SHIPは1年ごとの更新で最長5年までいられたのですが、東京五輪が予定されていた時期にオフィス転居するのは避けようと、前倒しで移転先を当たっていました。折りよく、この場所の入居者募集があったので、一も二もなく申し込ませてもらいました。

同じ品川区の施設なので居心地が良いですし、定期的に入居者の合同交流会や品川ビジネスクラブのイベントなどがあり、コミュニティの一員なのだという安心感もあります。他の創業者のご活躍に、刺激を受けることも少なくありません。

―今後の事業展開について、お聞かせください。

新たにAIを活用したコミュニケーションスキルにおける学習課題分析のサービスを9月にリリースしたところです。パイロット版でも一定の評価を得られていますので、評価サービスに加え事業の第2の柱となることを期待しています。

また、ある製造業の企業と共同で、生産システムにおける日本のものづくり人材の育成プログラムを開発中です。それにより、当社としてこれまでの営業や商談、製薬業界といった事業領域から、大きくフィールドを広げることとなります。各種リソースの確保や組織の拡充など、課題は山積ですが、もう一段の飛躍を遂げるチャンスだと、改めて意欲をかき立てられています。

これまでのところ、共同代表やメンバーたちのおかげで、良い仕組みを構築でき、会社として成長してこられたと感謝しています。現在はコロナ禍により、企業における働き方も見直されるなかで、評価指標に基づくデータの継続的な観察自体にも、経営者の関心が高まっています。当社のサービスの価値を実感いただける好機といえますので、引き続き、データに基づく戦略的な人材育成で、企業の成長に貢献していきたいと思います。

執筆者

取材ライター

久保田 かおる

インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。

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