Forbes JAPAN「日本の起業家ランキング2021」で1位受賞! クラウド録画サービスシェアNo.1のセーフィーに、映像からつくる未来像と五反田バレーへの思いを聞いてみた
2014年に創業し、約6年で出荷カメラ台数10万台を突破させ、国内のクラウド録画サービスでシェアNo.1を誇る、セーフィー株式会社。高画質で安価、誰でも簡単に使える同社のクラウドカメラサービスは、小売・外食・不動産・建設・各種自治体など、幅広い業界に支持を得ており、用途を防犯・監視から人手不足対策・マーケティング活用・業務効率化推進などへと広がりを見せています。Forbes JAPAN「日本の起業家ランキング2021」では1位に輝き、その活躍がますます期待されるところ。
代表取締役社長の佐渡島隆平さんに、その起業に至った経緯や、ビジネスにおける苦労、また、五反田バレーを代表するベンチャーとしての思いについて聞きました。
(プロフィール)
佐渡島 隆平さん セーフィー株式会社 代表取締役社長
学生時代、iモードの普及をきっかけに学生向けのコミュニティサービスを展開して起業。新卒ではソニーグループのソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社(旧ソネット株式会社)に入社。新規事業開発部門に配属され、モバイルサービスを中心に新サービスの立ち上げを経験。2010年にはソニー木原研究所からスピンアウトした、モーションポートレート株式会社のCMOに就任。2014年にセーフィー株式会社を設立。
防犯・監視カメラから、「意思決定をより楽にするインフラ」へ
―セーフィーでは、どのような事業を展開されているのですか?
佐渡島
「映像から未来をつくる」というビジョンのもと、クラウドの録画 サービスとしてシェアNO.1となっています。セーフィー対応のカメラによる画像を、クラウド経由で、セーフィーアプリで把握できるわけですが、たとえば飲食チェーンなどでエリアマネージャーが臨店しなくても、現場の様子を把握して業務改善に役立てられるといった使い方もされています。コロナ禍で移動や訪問が難しくなっていますので、このニーズはさらに高まっていますね。また、会社のエントランスや店舗などで来訪者の顔認識を行って来店者分析、防犯や業務効率化、マーケティングへの活用も進んでいます。たとえばオフィスでは、登録された社員は顔認証で入退場し、勤怠管理も自動化してます。宅配業者も登録しておけば、集荷時に自動で通知が来るなど、シーンによっていろいろな使い道が考えられるのですね。「みなさんの意思決定をより楽にしていくためのインフラ」だと定義づけています。
また、画期的だったのがウェアラブルクラウドカメラで、最新版の「セーフィー ポケット2」を2020年7月にリリースしています。厚めのスマートフォンくらいの大きさですが、ヘルメットや胸元に装着可能で、会話機能も備えているもの。これが建設現場の遠隔臨場や点検で大活躍しているのです。たとえば、新人が装着して現場を見て周り、遠隔でベテランの施行管理者が指示をして、要チェックポイントを確認する。これは業務の効率化とともに、教育効果もあり、建設現場で長年悩まれてきた課題を解決しているのです。また、これもコロナ禍で需要が急増しています。
―BBCから取材された、医療現場での活用事例もありましたね。
佐渡島
それは聖マリアンナ医科大学病院が、ダイヤモンド・プリンセス号の新型コロナウイルス感染症の重症患者を受け入れた際のことです。患者の容態やバイタルチェックを遠隔で、当社カメラの映像によって確認してもらいました。医療スタッフの入室を最小限、必要なチェックを遠隔で行えるということで、役立ててもらえました。
AIによる最先端の「画像認識技術」を、防犯カメラへ展開
―創業のきっかけや背景を教えて下さい。
佐渡島
創業する前は、ソニーグループのモーションポートレート社に勤めていました。そこは、画像処理技術に強みをもつ、ソニー木原研究所からスピンアウトした、会社でした。2013年くらいに、AI化で世の中にパラダイムシフトが起きる兆しを実感するようになったのです。画像処理ソフトウェアは、美的なセンスとプログラミングの融合した難易度の高い技術だったが、AIを活用すると、ソフトウェアにデータを与えていけば勝手にプログラムが育つ世界へ大転換していきました。データ中心のAI時代に突入したと2013年ごろに実感しました。
データによるソフトウェア進化を起点に新規ビジネスを模索していたときに、たまたま家を建てて、気づいたのが昔ながらの防犯カメラでした。これを、当時流行っていたアクションカメラをベースに『クラウドで賢くなるカメラ』をコンセプトにつくりかえてみようと考えました。ワイヤレスで安価で簡単、安心で賢くなるというわけですね。このビジネスで、現在取締役である下崎守朗、森本数馬と一緒に、セーフィーを創業したのです。
―社内の新規事業ではなく、あえて創業に踏み切ったのはなぜですか?
佐渡島
そもそも私自身が学生時代に、iモード上で学生同士のコミュニケーションプラットフォームを開発して、起業経験があったのです。休講情報やノートの貸し借りなど、学内でのやり取りのためのコミュニティサービスをつくってました。そこでユーザー心理に触れたのが面白く、自分がやっていることが世の中に波及していくのを実感できたんですね。でも、サラリーマンになると、そうしたビジネスの肌触りみたいなものは味わえなくなってしまっていました。もちろん、起業すれば苦労もありますが、その苦労と喜びのトレードオフも理解した上で、外に出て自分たちでやりたいと思ったのです。
また、社内で進めるとなると、会社で決められているカメラ製品の開発ロードマップに縛られ、世の中に出すまで時間がかかったでしょう。そのうちに市場のニーズが変わってしまうかもしれません。いったんスタートできれば、組織力や資金力などの点では社内の方が有利かもしれませんが、そもそもスタートを早くしたかったというのがありました。
創業から3年半かけて出荷した1万台を、今は1ヵ月で売り上げるまでに
―そうして2014年に創業されたわけですが、順風満帆だったのでしょうか?
佐渡島
いえいえ、3年半くらいは苦労続きでした。3人で出し合ったなけなしの自己資金のみでスタートしました。それに、事務所を借りるのも大変で初めは法人の銀行通帳もカードもつくれない等、企業の信用力というのがいかに大きいかを、遅まきながら痛感しましたね。当社は、後に2018年に一般社団法人五反田バレーが設立された時に、理事の一角を務めさせていただいていますが、創業の2014年当時はまだ、五反田にITベンチャーが、という流れも来てはいませんでした。それでも、ソニー出身というのがお膝元の土地柄だから通じるところがあって、ようやく五反田のシェアオフィスと契約することができたのです。
その後、カメラを製品化して販売を始めてからも、不具合が出るたびにそれが、ハードかソフトか、はたまたサービス部分に起因するものなのかを判断するのも難しかったのです。販売数が伸びるまでは、キャッシュフローがなく銀行借入もできず、資金繰りの苦労の連続でした。
―手応えが得られたのは、起業から3年半くらいして、ということですか?
佐渡島
確信は最初からあったんです。世の中の技術やサービスのトレンドとしてはクラウド化が明らかで、文字情報がクラウドベースになり、音楽がダウンロードからストリーミング配信になり、映像もyoutubeにアップロードするなどの変化が起きていましたから、当社のクラウド録画サービスもいつか必要とされる時代が来ると。
ただ、創業メンバー中心に営業をするわけですが、お客様を開拓はできてもなかなか大きくは育たず、ジレンマでした。その潮目が変わってきたのが3年半目あたりです。ある大手マンションデベロッパーが防犯カメラの全棟入れ替えで、当社のクラウド録画サービスの採用を決めてくれ、すると、そこに参画していた警備会社も契約してくれました。徐々にパートナー企業が増えていく流れが起きたのです。出荷台数も、創業からの3年半の積算でやっと1万台だったのが、今(2020年12月)では1ヵ月で1万台以上になっています。
5G普及で一気に、映像の活用環境が激変。そこがさらなる飛躍の時
―そうして、冒頭にお話いただいたようなマーケットができ上がっているわけですね。今後はどのような世界をめざしているのですか?
佐渡島
当社の製品・サービスはさまざまな製品やサービスに搭載や連携が可能な「映像プラットフォーム」として進化しています。今では建設現場や医療現場、河川を含め、個人宅かお店から山奥までさまざまに設置され始めており、創業当初に苦しんだ、データ化とその蓄積はできてきています。近い将来には、人間が行っている行為自体をアプリケーションに置き換えて、多くの行為を自動化できるでしょう。オフィス周りでの活用も進んでいますが、建設現場でもさらに広がっています。鹿島建設では、建設現場における資機材の位置や稼働状況、人の位置やバイタル情報等をリアルタイムに3次元で表示する現場管理システム「3D K-Field」など業務システムと連携がはじまってます。全ての工程をデジタルにし、遠隔での作業がすすんでいきます。将来的には自動運転ロボットと映像データが相互に連携する世界に移っていくでしょう。
クラウドカメラを活用すると、DXのファーストステップを誰もが簡単にスタートできるのが特徴です。
Googleストリートビューのようなものが完全リアルタイムに稼動し、映像から検索もできるなど、技術的には断片ごとにもう実現しているのです。2024年頃に日本全国で5Gが利用可能になるとされているので、そうなれば、小型の全天球カメラデータもスムーズに流通しやすく、見合ったコストで一気に活用が広がるでしょう。まさにティッピング・ポイントが近づいていると見ています。
―そうした壮大な未来を見据えていることが、Forbes Japan「日本の起業家ランキング2021」の1位という評価になったのですね。このランキングは、メルカリの山田進太郎氏が過去3度、1位に輝いており、多くのスタートアップがベンチマークとしているものです。
佐渡島
私自身が表紙になったことからも反響が大きくて、ビックリしているんです(笑)。顕著だったのは、これまで苦心してきたエンジニアの採用で、応募が何倍も来るようになったことですね。優秀な方たちに注目してもらえるようになったのは有難いです。さらにうれしかったのは、創業から支えてきてくれた人たちに「ここまで来られました!」とご報告できたことですね。さらに身を引き締めつつ、映像プラットフォームとして一人ひとりに根付くサービスに成長させていきたいと思っています。
五反田バレーの「顔」として、さらに協業や連携を深め、活気ある街づくりを
―五反田、そして品川区で創業し、成長されている企業としての思いをお聞かせいただけますか。
佐渡島
五反田バレーも、ベンチャー中心に盛り上げようという活動がメディアに取り上げられ、注目を集めたことでまた五反田にベンチャー企業が増えましたし、イメージも向上しました。さらに、品川区の支援も有難く、区が主催するイベント等に参加させていただいたりと、実質的な支援や一緒に良くしていこうという気概をしばしば感じさせてもらっています。五反田バレーでは一定規模のベンチャーに限らず、1~2名のスタートアップであっても、行政と一体となっていけるところに価値があると思いますね。ベンチャー1社ではできないことも、何社かで集まって大手企業と協業するような例もあります。
実際、当社は会計ソフトは同じ五反田バレーのfreeeのものを使っていますし、当社のカメラも多くのベンチャーに使っていただいています。そのあたりは、息をするように互いのサービスを使い合っている気がしますね。品川区の施設でもセーフィーを採用いただいていて、こうしたことは協業とはまた別に、自然と成立しており、格別な仲間意識を感じています。
―すると、これからも五反田バレーを代表するベンチャーの雄として、活躍いただけそうですね。
佐渡島
もちろんです! この(2021年)4月に五反田駅前の、まさに五反田の顔となる場所にオフィス増床 を予定しています。東急池上線や都営浅草線などの沿線に居住している社員が多いためで。また、コロナ禍では難しいですが、五反田はもともとコミュニケーションできるリーズナブルな飲食店にも恵まれています。駅近でも安価に借りれるのが五反田のメリットですね。五反田駅前のビルへ引っ越し、セーフィーは五反田にこだわっていこうと決めました(笑)。さらに五反田を良くしていくべく、将来的には当社のカメラを街の各所に設置していきたいですね。生まれ育ったこの街とともに成長していきたいとおもいます。
新オフィスでもオープンイノベーションを今以上に強化して、大手企業や大学等との協業を深めてきますが、それを五反田という街も活用した、私たちの生活がよくなるアプリケーションをつくって街に貢献したいと思います。リアルとハイテクを結びつける「ハブ」に自分たちはなっていきたいですし、それをどこよりも先に実現していくのが五反田でありたいですね。
執筆者
取材ライター
久保田 かおる
インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。