アクセラレーションプログラム
受講生インタビュー

2025.10.22

【五反田バレーアクセラレーションプログラム アルムナイ特集】過去の経済を旅する投資シミュレーションと行動分析で、未来の意思決定力と社会を見る目を育む「ベータインテグラル」


事業会社・金融機関・教育機関向けに、過去の経済データに基づく投資シミュレーション&ディスカッションによる金融経済教育プログラムを提供しているベータインテグラル株式会社。その事業の概要と、2024年度に参加した「五反田バレーアクセラレーションプログラム」で役立ったことについて、共同創業者の川上泰弘さんと岡本陽平さんに聞きました。

(ベータインテグラルの軌跡)
2019年8月 創業
2023年8月 事業のコアとなる投資シミュレーションアプリ「Beta Investors」をリリース
2024年9月~2025年3月 五反田バレーアクセラレーションプログラム第5期 参加
2024年12月 SHIP品川産業支援交流施設のラウンジ会員に登録
2025年3月 SHIP品川産業支援交流施設の会議室で、教員向け体験共有会を開催
2025年3月 西大井創業支援センターで小6~中3向けイベントを開催

(プロフィール)
川上 泰弘さん ベータインテグラル株式会社 共同創業者/代表取締役社長
米国証券アナリスト(CFA)、ファイナンシャル・リスク・マネージャー(FRM)、日本証券アナリスト協会認定アナリスト。2001年京都大学理学部卒業。2012年IE Business School卒業(MBA、Honorable Mention)。ビジネス系大学院、大学で優秀な成績を修めた者が入会を許可されるベータ・ガンマ・シグマ(ΒΓΣ)に所属。
これまでに、世界銀行グループの一機関である国際金融公社(International Finance Corporation, IFC)のワシントンDC本部のトレジャリー(財務部)にて上級財務担当官として勤務したほか、ピムコジャパン、シティバンク証券、ゴールドマン・サックス証券、ヘッジファンドなどで勤務。国際金融公社では、クオンツ部門(データサイエンス、金融工学)とトレジャリークライアントサービス部門(戦略的トレジャリー部門)で勤務。新卒時は日本アイ・ビー・エム株式会社に入社。ソフトウェア開発研究所に配属。

岡本 陽平さん ベータインテグラル株式会社 共同創業者/代表取締役副社長
弁護士(第一東京弁護士会所属)。東京大学法学部卒業。ベータインテグラル株式会社の代表取締役社長であり、岡本・上遠野法律事務所の代表。
それ以前は、裁判官として、約15年間勤務。東京地裁、松山地裁、那覇地家裁石垣支部で民事事件を中心に事件を担当。また、裁判官在任中、最高裁事務総局秘書課に勤務し、渉外事務を担当したほか、米国テキサス州サザンメソジスト大学ロースクールに派遣され、1年間在外研究を行った経験も。加えて、法務省に出向した上で、カンボジア王国に2年間滞在し、長期専門家として、JICAの実施する裁判官・検察官養成校民事教育改善プロジェクトにも従事。

シミュレーターでの投資体験で社会の仕組みや金融・企業活動を学べる

―まず、ベータインテグラルの事業について教えてください。

岡本 陽平

私たちは「Beta Investors」というアプリを活用し、金融経済教育プログラムを提供しています。過去の経済に「時間旅行」して、実際の財務指標や決算発表などのデータを参照しながら投資シミュレーションを体験できるのが特徴です。そのときの財政・金融政策や国際関係など、マクロの観点から当時の経済状況を解説したうえでシミュレーションを行うので、単なる資産運用ゲームにはならず、投資体験を通して社会の仕組みや金融・企業活動を学べます。
現在は対象ごとに、事業会社向けの「Beta Investors DC/NISA」(DC=企業型確定拠出年金などの実在制度を題材に、社員向け金融教育を提供)、金融機関や大学院向けの「Beta Investors Pro」、中学校・高等学校・大学生向けの「Beta Investors +(プラス)」という3つのプログラムを展開しています。

川上 泰弘

お客様のニーズに応じて柔軟にプログラムを設計しており、Beta Investorsシリーズでは、対象や目的に応じてプログラム構成が異なります。
たとえば、高校・大学や新入社員研修向けの「Beta Investors+」や「Beta Investors Pro」では、過去の経済データを用いた投資シミュレーションを行ったうえで、企業分析のワークショップを実施します。これは、安全に失敗できる環境の中で投資判断を繰り返すことで、投資の成功体験や気づきを得られる構成となっており、単なる知識習得にとどまらない、深い学びが可能です。その教育効果が評価され、大和証券の新入社員研修や、灘高校・早稲田大阪高等学校などの授業にご導入いただいています。
一方、「Beta Investors DC / NISA」は、事業会社の従業員向けに設計されたもので、ご好評をいただいている過去の経済データを用いた投資シミュレーションを通じて、経済環境への理解を深めながら、DC年金・NISAで選択可能な商品の特徴、配分変更(新規掛金での割合変更)・スイッチング(ポートフォリオ全体の割合変更)に関する実践的なTipsをお伝えします。制度の中で自律的かつ自信を持った判断ができるよう、事前に「予行演習」する場を提供することを目的としています。また、シミュレーション内の行動ログを分析し、その方の投資判断スタイルやリスク選好といった個々の行動特性を可視化し、自己理解や内省につなげる機能も備えています。こうした行動データを通じて、自分がどんな時に迷いやすいのか、どのような傾向でリスクを取るのかといった「意思決定の癖」を可視化することで、実践に活かせる自信と行動変容を促します。集団単位の行動傾向も可視化できるため、企業の人的資本投資や金融不安の把握にもつなげていただけます。たとえば、特定部署のリスク傾向や判断の傾向を把握することで、金融リテラシー教育や福利厚生施策の設計にも活かすことができます。こうしたデータは、個人の意思決定支援にとどまらず、人的資本経営や福利厚生施策の設計、従業員の金融不安の把握といったHR戦略にも活用可能です。近年注目される人的資本の情報開示や、社員エンゲージメントの可視化にも資する取り組みとして関心を集めています。
私たちの金融教育は、知識を伝える「講義」ではなく、過去の経済を体験し、自らの判断と向き合う「予行演習」です。そこにこそ、実社会で使える力が宿ると考えています。
「投資を学ぶ」のその先へ。自分の未来と社会を見通す力を養う。それが「Beta Investors」アプリで目指す金融経済教育です。

―ユーザーからの評価はどのようでしょうか。

川上 泰弘

まずユーザー数では、2023年8月に「Beta Investors」をローンチして、当初1年で1,000人ぐらい。全て学校の生徒さんでした。今(2025年5月)はそれが法人の従業員様を含めて約3,000人になっています。最初は私立の進学校で、担当される先生から高い評価をいただき、導入が進んでいます。灘高等学校の池田先生からは、「単なる投資教育に留まらない工夫がされていて、学習を通じて社会を見る楽しさに気づき、さまざまなニュースの解像度が上がる。それはさらに自身の生き方を考えることにもつながるように感じる」との声をいただいています。一方、公立校は導入の承認に一般的にお時間がかかりますが、2025年度に導入が進んでいます。

岡本 陽平

金融機関向けなどは2025年から始まったので伸びしろが大きく、大きな成長を期待しています。また、事業会社向けにも確定拠出年金やNISAのための金融経済教育をご提供するお話が進んでいます。こちらも非常に伸びしろが大きい領域です。

品川区の施設という安心感のもと、教員向け製品体験会や親子プログラムを実施

―2023年度の「五反田バレーアクセラレーションプログラム」に応募された理由を教えてください。

岡本 陽平

創業したのは大田区でしたが、創業当時から五反田バレーに憧れを持っていました。当社はフットワークを軽く、いろいろ挑戦していきたいと思って事業を進めてきましたので、五反田バレーのカルチャーに触れて、良い影響をいただきたいと思ったのです。

―実際に参加されてみて、役立ったことはありましたか?

川上 泰弘

プログラムの特典でSHIPを知ったのは大きかったですね。とても気に入ったので、2025年2月に登記を移し、SHIPを事務所としています。
タイミングをほぼ同じくして、2025年3月にSHIPの会議室を会場として、「Beta Investors +」の体験共有会を開催しました。導入されている4校の先生方にパネルディスカッションを行ってもらい、興味を持たれている先生方に参加いただいたのですが、そのときに綺麗な場所だと好印象を持っていただけました。品川区の施設ということもあり、当社への信頼につながったと思います。

―研修で印象に残ったものを教えてください。

川上 泰弘

印象的なのは、先輩スタートアップとの交流会で、事業や組織の「しくじりポイント」を話してくださった㈱エスマットの林社長の回や、Chatworkを創業・EXITされた山本さんが起業のリアルを話された回ですね。そうした本音の話が、本当に勉強になりました。細かいことでいうと、山本さんが新たにリリースしたエンジェルとスタートアップをつなげるプラットフォームを紹介されたのですが、そのビジネスモデルがどうなっているかと受講者から質問があったんですね。そのやり取りを聞いて、ビジネスモデル自体やそれに対して他の経営者がどういう反応をするのかを興味深く感じました。研修も回を重ねていて、受講者間の理解も進んでいるので、どういうフェーズだとそういう質問がでるのかも分かり、自分ごとにしやすかったです。

岡本 陽平

苦労されているところは皆、本質的には同じなんだなとも思えましたね。起業してみると思ってもみなかったことが起こるものですが、自分たちだけが苦労しているわけじゃないと分かり、安心しました。

―そのほかに、プログラムに参加して良かったことや成果はありますか?

川上 泰弘

ピッチに対するフィードバックで、プログラムの提供を自分たちで行っているとスケールが難しいといわれたのを受けて、現場の先生だけでプログラム進行できるように動画を製作するなどしています。
また、2025年3月に西大井創業支援センターで小6~中3向けにイベントを開催させてもらいました。「Beta Investors」でシミュレーションゲームを行い、経済の仕組みや企業の働きについて学ぼうという企画で、当社が対象としてきた層より少し低年齢向けです。そこで導入をクイズ形式にするなど、新しい試みもしてみました。クイズ形式は大いに盛り上がったので、その後、金融機関向けプログラムにも積極的に取り入れたりしています。
このイベントをやることになったのは、2月末に有志参加で行われた金融機関勉強会が終わった後の交流会で、品川区のイベント等で何かできることがあるか話をしたのがきっかけです。親子参加で経済を楽しく学べるというのが、品川区の施設で行うのにフィットしましたし、当社としてもプログラムの可能性を新たに見いだす機会になりました。
もう一つ大きかったのはプログラム参加者への特典で、MUFGグループが関係会社などをご紹介いただけるというのがあったので、何かご一緒できる機会をくださいとお願いさせていただいたところ、三菱UFJ銀行を含むグループ10社の従業員の方々向けに金融経済教育の授業を提供させていただく機会を頂戴しました。それも初回のオンライン会議で、窓口のご担当者がカウンターパートになる方を紹介してくださり、しっかりつないでいただきました。たいへん丁寧なご対応で感謝しています。1回120分の授業だったのですが、大変好評で、第1回目の授業終了後、すぐに、その次の授業をその場で受注させていただきました。

EdTechにHR Tech要素を加え、さらなるスケールを目指す

―今後の事業展開はどのように考えていますか?

川上 泰弘

製品のレイヤーで言えば、私たちは金融経済教育において「Beta Investors」シミュレーターの機能を拡張し、確定拠出年金(DC)やNISAといった実在する制度を題材にした、超リアルな意思決定トレーニング環境を拡張しようとしています。
『タイムマシントレード®』の仕組みにより、受講者は現実さながらの経済環境で「安全に失敗できる」体験を通じて、実践的な金融リテラシーと自信を育むことができます。
この体験を通じて、単なる知識の習得ではなく、「自らの将来に対する納得感ある選択」を支援し、それが結果として従業員の金融不安の軽減や企業へのエンゲージメント向上につながると考えています。
導入1年後の目標として、老後資金への不安を80%から60%へ、投資判断への不安を50%から30%へと、20ポイント以上の改善を目指します。これは、実証的にも十分に達成可能な水準と思われ、従業員の金融ウェルビーイング向上に貢献したいと考えています。
さらに、シミュレーター上での投資行動・判断プロセスを分析することで、受講者の行動特性や意思決定スタイルを可視化し、個別あるいは集団単位でのフィードバックを行うBehavioral Analytics(BA)機能も搭載しています。
加えて現在、米国を中心に中・低所得者層向けの金融経済教育の提供可能性について、現地企業や金融機関へのインタビューを重ねており、誰もがアクセス可能な金融教育インフラの構築を目指しています。

岡本 陽平

今後、日本では、EdTechに加えてHR Techの側面もアピールしていきたいと思っています。他方で、海外では現在、ターゲットとなる顧客のニーズを調査中ですが、中・低所得者層向けへの金融経済教育の提供ができるのではないかと考えています。この点を推進していくためにも、日本で事業基盤を作ってからにはなりますが、いずれ海外で資金調達を行っていきたいと考えています。夢は大きく2030年には金融教育の再定義を実現するプラットフォームとして、ナスダック上場を目指したいですね。

―最後に、スタートアップとして成長を目指す人へアドバイスをお願いします。

川上 泰弘

ほかとの差別化が大事なので、自分の得意なことで勝負してほしいですね。そのうえで、起業は総合格闘技なので、不正あるいは違法な手段は論外ですが、そうでなければどんな技を使ってでも道を切り開いていくべきだと思います。それでも起業にはリスクが付きもので、歯を食いしばって突き進まねばならない局面というのは必ずあります。そのときに共同創業者の存在はとても有難いです。当社でもアクセルとコントロールといったバランスが2人にあって、やってこれました。起業するなら、ぜひそうした相手を見つけるのはお勧めです。ちなみに、私と岡本さんは中高の同級生なんです。お互いのことを30年強知っているので、支え合いやすい関係と言えるかと思います。

岡本 陽平

私たち2人は40代になってから起業しており、挑戦するタイミングとしては決して早くありません。しかし、その分、それぞれに経歴を積み上げてきたという自負もあります。そのうえで、リスクをとってスタートアップとして挑戦をしたわけですが、大変なこともある分、挑戦しなければ得られなかったであろう大きなやりがいを感じています。そんな風に、年齢やキャリア、経験などは人それぞれで、千差万別の強みというのがあると思います。それを活かして、お互い頑張っていきましょう。

執筆者

取材ライター

久保田 かおる

インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。

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