【五反田バレーアクセラレーションプログラム アルムナイ特集】安価&容易に人やものを検知できるエッジAIカメラで、効果的な防犯・害獣対策を目指すFutuRocket株式会社代表にプログラムでの成果や今後の展望について聞いてみた。
システム開発やカスタマイズ不要で、手頃な価格で導入できるエッジAIカメラ「ManaCam(マナカム)」を展開するFutuRocket(フューチャーロケット)株式会社。屋内施設における利用人数の計測にはじまり、屋外での放置自転車の検知、害獣・害虫の検知など、活用シーンを広げています。その事業の概要と、2021年に参加した「五反田バレーアクセラレーションプログラム」で役立ったこと、その後の事業展開について、代表取締役の美谷広海さんに聞きました。
(FutuRocketの軌跡)
2017年8月 創業
2021年9月~2022年3月 五反田バレーアクセラレーションプログラム第2期 参加
2023年11月 五反田バレーアクセラレーションプログラムOB交流会 参加
(プロフィール)
美谷広海さん FutuRocket株式会社 CEO兼創設者
慶應義塾大学環境情報学部卒。楽天、グリーで海外事業に従事し、2015年からハードウェアスタートアップのCerevo社にて海外のセールスとマーケティングを担当。2017年8月にFutuRocket株式会社を設立。
カウント・検知に特化したエッジAIカメラが、顧客ニーズで用途を拡大
―まず、FutuRocketの事業について教えてください。
美谷 広海
エッジAIカメラ「ManaCam」を開発・提供しています。センサーとして人やもののカウントや検知に特化する考え方で機能を削ぎ落としたのが特徴で、1台1万円と月額利用料という手頃な価格、かつ電球ソケットなどに接続するだけで使えるため工事不要で、普及しやすくなっています。
もともとはコワーキングスペースやオフィスの会議室などの利用状況を知る用途で実証実験や導入を進めていました。今何人が利用しているのか、どの時間帯が多く利用されるのかなどを知って、効率的な運用に役立ててもらうという使われ方です。しかし、自治体や企業のニーズに合わせた結果、放置自転車の検知や害獣・害虫の検知にシフトして、実証実験や開発を進めているところです。
―新たな用途について、具体的に教えてください。
美谷 広海
放置自転車については、ある自治体の公募で自動販売機を活用したスマートシティプロジェクトに応募・採択されて、飲料メーカーやICT企業と共同で実証実験を行いました。街中の自販機に「ManaCam」を設置して、どの時間帯や曜日に放置自転車が起きているかなど、発生傾向をデータで取得します。カメラの感度をいろいろ試して、対象物との距離やデータの正確性で妥当なバランスを探るなどしました。引き続き、自治体の補助制度などを使って開発を進めていきます。
―もう1つの害獣・害虫の検知というのは、どのようなものですか?
美谷 広海
もともと「ManaCam」で来店客のいる時間帯を計測していた飲食店から、ネズミやゴキブリでもできないかと相談されたのがきっかけでした。それで調べてみると給食センターや、食品以外の物流倉庫でもニーズがあったのです。商品を汚損されないよう頻繁に駆除しているそうで、発生の状況や駆除の成果などの把握が課題でした。
そうしたニーズに対応していたときに、大手電機メーカーの共創プログラムがあって応募したところ採択されて、赤外線センサーを活用して害獣・害虫を検知するデバイスの共同実証実験を行いました。エアコンのセンサーで人の居場所を検知して風向きを変える技術により、害獣・害虫もその温度で検知しようというものです。赤外線を使うことで、真っ暗な天井裏や人が立ち入りにくい場所でも検知できるようになりました。
―すると、これらを製品化したものが主力になっていきますか?
美谷 広海
これらの開発は進めていきますが、それとは別に屋外利用のニーズも出てきています。たとえば、花火大会などのイベントの来客数は全体的には把握できていますが、さらにオンタイムでの混雑状況を把握したいという要望があるので、屋外仕様についても検討中です。
また、地方での害獣対策の要望も高いので、イノシシやクマの出現を検知できるよう、まずそれらの動画をクラウドに集めて教師データを作り、人ではなくイノシシやクマだと自動判定できるようなものを考えています。
展示会で知り合う同業界の起業家と違い、競合にならない仲間ができる
―創業されたのは2017年8月とのことですが、2021年の「五反田バレーアクセラレーションプログラム」に応募された理由を教えてください。
美谷 広海
もともと品川区に住まいがあり、その住所で登記して起業していました。当時から品川区の創業支援制度はいろいろと活用していて、会社を設立する際の登記費用が安くなる制度(特定創業支援事業:法人設立時の登録免許税の減免などのメリットがある)や、特許申請した際の費用補助(特許権取得費助成)も使わせてもらいました。その流れで、アクセラレーションプログラムについても知ったのです。
その時点で「ManaCam」はすでにローンチしており、電力会社と実証実験中で設置も進みつつありました。プログラムに求めたのは、事業拡大や資金調達の知見、そして他のスタートアップと接点を持つことでつながりや学びが得られることです。また、品川区主催ということで、地域に根ざしたところのメリットも期待しました。
―実際に参加してみて、期待どおりでしたか?
美谷 広海
いろいろつながりが増えたのが一番大きかったです。他の起業家と交流が深められ、本音で話ができました。資金調達やキャッシュフローなどの苦労を聞くと、自分たちの問題はそこまで大ごとではないとか、もっとがんばらねばと思えましたね。
実際、半年のプログラム期間中は定期的に顔を合わせ、交流できる仕掛けも考えられたプログラムでした。また、プログラム運営でSlackを使うのですが、Slack上で飲みに誘い合ったりもしていました。
日頃から展示会などで良く一緒になる会社とは顔なじみになりますが、業界内に限られます。それが、こうしたプログラムだと業界に関係なく交流できるので競合にならず、顧客の紹介や相談をし合ったりできたのが新鮮でした。
―そのほか、役立ったことがあれば教えてください。
美谷 広海
研修で先輩スタートアップの話を聞いた会は面白かったです。セーフィーの佐渡島社長、ZEALSの清水社長の話にはそれぞれとても刺激を受けました。
あと、プログラムの特典では、セガサミーが運営するトンネル東京のコワーキングスペースはかなり使わせてもらいました。五反田バレーにもこの機に入会して、交流の輪を広げています。
また、プログラム修了後の2023年11月に参加させてもらった「OB×受講者交流会」も、良い機会でした。他のスタートアップのピッチや事業説明を聞くのは勉強になります。同期の状況をこうした場で確認できると、それぞれの成長や苦労が思いやられ、大いに刺激になりました。
東南アジアやアメリカ、ヨーロッパに事業展開の布石を
―FutuRocketの事業について、今後の展望を教えてください。
美谷 広海
もともと海外展開は強く意識してきました。以前勤めていたハードウェアスタートアップが毎年アメリカの展示会に出展していた経験から、海外で事例を作って日本に逆輸入させると導入しやすいと肌で感じたからです。そこで、CESやパリで開催される欧州最大展示会のVIVA TECHNOLOGYには2018年頃から出展・参加しています。
また、香港中文大学のインキュベーションプログラムに、2023年12月から翌年3月期に採択されました。続いて香港政府より、当地での会社設立や試作品製作を支援されるHKSTP Ideaton Programmeに採択され、香港法人の設立を行いました。香港では飲食店の賃貸契約で殺虫や殺鼠が義務付けられていますので、今後の事業展開として害獣・害虫対策は東南アジアが市場として有望だと考えています。日本、特に東京は大企業が多く、決裁までに時間がかかりがちなので、その点でも海外展開を強化したいと考えています。
―最後に、スタートアップとして成長を目指す人へアドバイスをお願いします。
美谷 広海
私自身、30歳頃から起業は頭にあったのですが、このアイデアでいけるという手応えがなかなか得られず、結局38歳での起業となりました。人それぞれのタイミングというのがありますので、焦ることはないと思います。
一方で、最近では副業も広がっており、共創や社内で新規事業に携わる機会も増えています。起業というと重い決断を迫られるものかもしれませんが、五反田バレーアクセラレーションプログラムは起業前でも参加できるので、自分の活動や考えに広がりを持たせる機会として利用してみるのもよいでしょう。
そうして、何かしら思いが高まって行動に移すときには、自治体の創業支援制度などをうまく活用してみてください。資金が特に足りない創業時には、本当にありがたいものです。
執筆者
取材ライター
久保田 かおる
インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。