【五反田バレーアクセラレーションプログラム アルムナイ特集】 スマート防犯アクセサリーの事業を推進する株式会社ルースヒースガーデン奥出代表にプログラムでの成果や今後の展望について聞いてみた。
2013年にデザイン事業で起業し、後に始めた、夜道の不安に寄り添うスマート防犯アクセサリーの事業を軌道に乗せるため、2020年の「五反田バレーアクセラレーションプログラム」に参加した、株式会社ルースヒースガーデン代表取締役/Directorの奥出えりかさん。事業の概要とその後の進捗、プログラム参加で役立ったことなどについて聞きました。
(ルースヒースガーデンの軌跡)
2013年4月 創業
2020年9月~2021年3月 五反田バレーアクセラレーションプログラム1期生
(プロフィール)
奥出えりかさん 株式会社ルースヒースガーデン 代表取締役/Director
慶應義塾大学環境情報学部、同大学大学院メディアデザイン研究科にてインタラクションデザイン、デザイン思考によるイノベーション創出手法を専攻。2013年4月に株式会社ルースヒースガーデンを、幼なじみでデザイナーの植田えりかと共同創業。企業向けのデザイン思考研修や新規事業創出支援などを行う。
ライフワークのデザイン事業と、急成長を目指すデバイス事業を切り分け
―まず、ルースヒースガーデンの事業について教えてください。
奥出 えりか
日常のもやもやを解決し、豊かな生活をプロデュースするデザインカンパニーとして活動しています。具体的には、イラストやちらし、Webサイト、展示ブースなどのグラフィックデザイン業務や、キャラクターデザインなどのアートディレクション、企業などにおける新規事業創出アドバイスならびにワークショップのファシリテーションなどを行っています。デザイン思考を軸にしているのが特徴で、必要に応じてフィールドワークやプロトタイピングも丁寧に行います。
―2020年の「五反田バレーアクセラレーションプログラム」に参加されていたときは、スマート防犯アクセサリーの事業を手がけていましたね。
奥出 えりか
そうですね。夜道の不安に寄り添うスマート防犯デバイスで、当時は「しっぽコール」と呼んでいました。その事業をプログラムで推進することができ、後に「Yolni(ヨルニ)」という製品名に変え、2023年4月には別会社を作ってデバイス事業をそちらに切り分けています。ルースヒースガーデンのほうはライフワークとして、スモールビジネス的に行っていき、Yolniのほうはスタートアップ的な事業成長を目指していきます。
運営スタイルや成長の時間軸が異なるので法人を切り分けたわけですが、2023年末に表彰のあった大阪のあるビジネスコンテストでYolniがファイナリスト賞を受賞したのを受け、次年度のロゴや応募チラシのデザインをルースヒースガーデンに依頼されるなど、相乗効果も感じられています。
プログラムの研修がきっかけで、資金調達への意識が高まった
―2020年の「五反田バレーアクセラレーションプログラム」に応募された理由、目的を教えてください。
奥出 えりか
もともと起業家仲間からSHIP(品川区創業支援施設)を勧められて、2017年に自宅からSHIPに登記を移して拠点としていました。そこで、品川区がアクセラレーションプログラムを行うと知ったのです。
実際、Yolniの前身となるデバイスのプロトタイプ製作では、SHIP内の工房に常駐されていたPrimal Design. Laboの方にアドバイスをいただき、たいへん助けになりました。また、品川区の「新製品・新技術開発促進助成」を活用するなど、品川区の支援は日頃から役立てていたので、デバイス事業をビジネス面でもサポートしてもらおうと、アクセラレーションプログラムへの参加も決めました。
奥出 えりか
パートナー企業であるセガサミーホールディングスが大崎で運営するTUNNEL TOKYOが研修の最終プレゼン会場にもなっていたのですが、華やかなので見られて楽しかったです。
また、研修のときのノートは、後で見て役立つことが多かったです。広報について、プレスリリースのポイントなどを教えてもらったのも具体的で良かったです。一般に、スタートアップのマーケティングに関する情報はネットでもよく見ますが、広報はそこまで情報が多くなかったように思います。
専門的なことで最も役立ったのは、資金調達についてですね。
―具体的に、どのように役立ったのですか?
奥出 えりか
その年にプログラムを運営してくださった会社の社長から実際に自社の資金調達を行った際のリアルな苦労話が聞けて、参考になりました。よくある資金調達セミナーなどだと、VCや金融機関側からの話が主になることが多いように思うので、貴重な機会でした。
当時は、特に資金調達を考えてはいなかったのですが、シードなので常に口座残高はギリギリの状態です。そういった状況を他の受講者と共有でき、自分だけではないのだと思えたのも大きかったですね。また、プログラム受講後に、今の自分にはエクイティより融資での資金調達のほうが合っていると考え、Yolniで金融機関から借り入れを行いました。それでキャッシュフローが落ち着いたので、研修の内容が本当に役立ったと思います。
スモールビジネスのルースヒースガーデンのほうでは、なるべくこうした借り入れは行わずにやっていきたいので、その意味でも法人を切り分けて良かったです。また、Yolniでは設立時から、将来エクイティでの資金調達可能性も考えた株主構成にしています。こうしたことにも、研修で学んだことが役立っていますね。
人とのつながりが共感を呼び、ビジネスの好循環をもたらす
―ビジネスの現状を教えてください。
奥出 えりか
まず、Yolniのほうは量産向けの製造が進行中で、正式販売の前にまずクラウドファンディングでの販売を予定しています。プロのフォトグラファーに撮影をお願いしており、Yolniの質感や魅力が伝わるビジュアルにリニューアル予定です。
量産向けの製造の方は、想像以上に困難が多かったです。たとえば、プロトタイプと違って量産向けの場合は、部品の調達でも数の確保やコスト面を強く意識する必要があるのです。ECや通販ではなく、実際に工場や卸に当たって交渉することが大事ですが、スタートアップだと商談として小さいので相手にしてもらえなかったりします。また、小ロットでも扱ってもらえる代理店を探さねばならないのも、スタートアップならではの苦労ですね。
そういうときに大事なのが、人とのつながりです。スタートアップとしてのがんばりや事業への共感などから、融通を利かせてくれるようなステークホルダーと出会うには、信頼の置ける方の紹介などが重要。そういう縁につながるような人付き合いを日頃から心がけるべきですし、アクセラレーションプログラムなどでの出会いも大事にするとよいでしょう。
―今後やっていきたいことはありますか?
奥出 えりか
ハードウェアのビジネスの知見を共有するようなこともやっていきたいですね。Maker Faire Tokyoという、ものづくりの祭典のような展示会があるのですが、Yolniで出展し、これまで作ってきたプロトタイプを時系列で並べたところ好評をいただきました。こうしてナレッジシェアすることで、共感や応援の声をもらったり、ものづくりへの勇気を与えられればと思っています。
ルースヒースガーデンでも、大学の授業を1コマ使って、起業をイメージできるようなワークショップを行ったりしていますし、もともと得意だったデザイン思考を活用した企業内の新規事業開発の支援に、Yolniでの経験も役立たせたいですね。
―スタートアップとして成長を目指す人へアドバイスをお願いします。
奥出 えりか
共感してくれる人を見つけることが大事です。応援したいと思ってくれる人と仕事しないと、良いものになりません。そのためには、いろいろな人にアイデアや考えを話していくこと。そうして、一緒にやりたいとか、面白そうだと思ってもらえるよう、がんばってほしいです。
アクセラレーションプログラムやコンテスト、展示会なども、自分の夢を語る練習になるでしょう。そこで言われたことをメンバーと共有していけば、事業やプロダクトのブラッシュアップにつながります。また、同じフェーズの起業家同士からの応援や励ましは栄養にして、忌憚なく言われた意見もプラスの材料にすればよいと思います。
執筆者
取材ライター
久保田 かおる
インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。