【五反田バレーアクセラレーションプログラム アルムナイ特集】世界中のゲーマーに、「声」でキャラクターを育成する新たなゲーム体験を届ける「Pit-Step」にプログラムでの成果や今後の展望について聞いてみた。
AI搭載キャラクターとの音声コミュニケーション機能を備えたインディーゲームを開発している株式会社Pit-Step。その事業の概要と、2023年に参加した「五反田バレーアクセラレーションプログラム」で役立ったこと、その後のピボットや資金調達について、代表取締役CEOの御前(みさき)純さんに聞きました。
(Pit-Stepの軌跡)
2021年2月 創業
2023年4月 プレシードラウンドでVC(ベンチャーキャピタル)からの資金調達を実施
2023年9月~2024年3月 五反田バレーアクセラレーションプログラム第4期 参加
2025年4月 元セガ・元ブシロード他の黒川文雄氏より資金調達を実施
(プロフィール)
御前 純さん 株式会社Pit-Step 代表取締役CEO
大学在籍中、VRソフトウェアの開発に関わり、文部科学省のEDGEプログラムに採択されシリコンバレーを訪問。その後、海外での研究発表や英語論文を執筆・発表。新卒でアクセンチュア株式会社に入社後、国内大手企業のシステム設計/開発を経て、AI・メタバースなど最先端テクノロジーによる新たな顧客体験の創出を軸として、案件提案や新規事業開発に従事。業務の傍ら、インディーハッカーとしてエンジニアとチームを組み、AIやXR技術を活用したゲームやアプリケーションを複数開発。2021年に退職し、株式会社Pit-Stepを創業。
音声でAIキャラクターを育成。実況配信にも適した、次世代のゲーム体験を創出
―まず、Pit-Stepの事業について教えてください。

御前 純
AIキャラクターとの自然な音声コミュニケーションを実現するゲーム「NINJA CATS: Tactics」を開発しており、プレイヤーが「声」でキャラクターを育成しながらプレイを進める新たなゲーム体験の創造を目指しています。
もともとは、「生成AI駆動のチャットノベルゲーム」というコンセプトで、テキストでAIキャラクターと会話してプレイヤーの趣味嗜好を認識させながら、AIが無限に選択肢や展開を生成し毎回フレッシュなゲーム体験ができるモバイルアプリを開発・検証していました。しかし、手軽にスマホでできるのでユーザーは一定数確保できた一方、収益化のハードルが高いという事業上の課題を見つけたため、思い切ってPC(パーソナルコンピューター)向けの有料ゲームとして提供する形に変えました。そのピボットの中で、PCゲーマーの多くが実況動画をきっかけに購入に至る傾向があることをユーザーヒアリングで掴み、また当時アメリカの実況配信者を中心に盛り上がりを見せていた、AIキャラクターと音声で会話するゲームからもヒントを得ました。こうして辿り着いたのが、テキストではなく“音声”を通じてキャラクターとコミュニケーションするというアプローチです。
―音声での育成を含むゲームの開発はどのようなフェーズにありますか?

御前 純
2024年9月に東京ゲームショウのサイドイベントで、「NINJA CATS: Tactics」のプロトタイプを公開し、プレゼンテーションで開発コンセプトを紹介しました。その会場で有名なゲームプロデューサーや実況配信者などから得た意見をふまえて、キャラクターとのコミュニケーションをより自然に行えるよう、ディレクターとゲームデザインを数ヶ月再検討し、年明けからエンジニアをアサインして本格的に開発をスタートしました。2025年3月にはサンフランシスコで開催された世界最大級のゲーム開発者会議「Game Developers Conference(GDC)」でJETROのジャパンパビリオンに出展し、主に北米からの来場者から好意的なフィードバックが得られています。その後もアップデートを重ね、2025年9月の東京ゲームショウでデモ版のお披露目を行うとともに、年末にはリリースを目指しています。PCゲームは英語圏と中華圏が二大市場なので、日本はもちろん海外市場も意識してマーケティングを行い、外貨を稼げる事業として成長させていきたいです。
品川区という共通項のある参加者同士、アットホームな雰囲気で関係を深められる
―2023年度の「五反田バレーアクセラレーションプログラム」に応募された理由を教えてください。

御前 純
2021年の創業から一貫してBtoCのプロダクトを作ってきましたが、私自身はアクセンチュアの出身で大企業の実情に長けていることもあり、BtoBも意識してみようと考え、その事業化に向けて「五反田バレーアクセラレーションプログラム」に応募しました。
こうしたプログラムは大抵応募にあたり、創業後○年以内という要件があるもの(※「五反田バレーアクセラレーションプログラム」の場合は、創業後概ね5年以内の事業者)。こうした要件にどんどんかからなくなってしまうため、早めに応募しようと思ったのもあります。
また、五反田に住まいがあり品川区に登記していたので、品川区の創業支援や五反田バレーなどのスタートアップコミュニティに関わるのに良い機会だとも思いました。プログラム参加者の特典も、五反田バレーの年会費が初年度無料になったり、事業会社による実証実験支援など、さまざまあったので、そのなかで何か良い出会いがあればという期待も大きかったです。
―実際に参加されてみて、役立ったことはありましたか?

御前 純
当時取り組んだBtoB事業では、AIでパワーポイントのプレゼン資料や研修動画を作成できるプラットフォームを手掛けており、プロトタイプを制作して大手企業との商談や展示会出展も行ったのですがうまく顧客のニーズにフィットしませんでした。少し軸をずらして大企業向けのサービス開発を模索する道もありましたが、やはり創業時の思いに立ち返ってBtoC事業をやりたいと思い、現在のゲーム事業にピボットしたのです。その事業アイデアについて12月の第4回目の研修でピッチさせてもらい、いろいろ意見が聞けたのもたいへん良かったです。
―そのほか、役立ったことや印象的だったことがあれば教えてください。

御前 純
講師をされたスタートアップ経営者などが、まさに今活躍されている方たちなので、リアルな話が伺えました。また、第5回の「Chatwork創業者が語る起業のリアル&シード/アーリーステージのスタートアップが意識すべきピッチのポイント」では希望者がピッチを行い、百戦練磨の山本さんにその場でフィードバックしてもらえるという貴重な機会だったので、手を挙げてやらせてもらいました。事業計画やピッチ構成への「愛のあるダメ出し」を含めたコメントも、私たち参加者を起業家としてリスペクトしたうえで、ストレートに改善点を指摘いただけて有難かったです。
―他のアクセラレーションプログラムと比較して、何か感じられたことはありますか?

御前 純
DemoDay以前にも、希望すればピッチの機会がいろいろあるのは特徴的でしたね。プログラム自体は聴講のみでも十分価値あるものとは思いますが、私自身はさらにピッチをうまく活用できたと感じています。同じように気概のある参加者同士で飲みに行ったり、LINEグループを作って交流を深め、実際に互いの仕事を少し手伝ったりもしました。
また、私はこれまで経産省やJETROなどのプログラムにも採択されていますが、自治体によるプログラムへの採択は初めてでした。想定よりもさまざまな業界やテクノロジーを使ったスタートアップが参加していて刺激になりましたし、ローカルな良さというのか、品川区に縁があるという共通項で話しやすく、飲みに行くのもそのまま五反田でというので、アットホームな面白さがありました。
また、自由参加のイベントもいろいろ企画されています。私はそのなかで、パートナー企業との交流会に参加しました。JTB、学研、東急からのリバースピッチがあり、それぞれがスタートアップと連携する目的や意図、実際の取り組み事例が紹介されたうえで交流タイムが設けられるというもの。各企業の意図が分かれば連携のイメージもわきますし、名刺交換もできてよかったです。
結果を早急に求めるより、良い出会いを深め、長い目でつながり続ける
―御前さんは資金調達について積極的に動かれていますが、工夫されている点などを教えてください。

御前 純
もともと2023年4月に、VCのインキュベーションプログラムに参加して、プレシードラウンドで初めての資金調達をしていました。その後参加した「五反田バレーアクセラレーションプログラム」の時から取り組んでいる事業が、ゲームという特殊な領域かつ、最先端のAIテクノロジーを用いたプロダクトであるため、業界に精通していて、かつ新しいチャレンジを応援してくれる方を探していました。その思いが実り、ゲーム業界で豊富な実績を持つ黒川文雄氏から出資いただく形で、2025年4月に2回目の資金調達を完了することができました。黒川氏にはアドバイザーに就任していただき、いつも当社の事業を応援いただいています。
―最後に、スタートアップとして成長を目指す人へアドバイスをお願いします。

御前 純
「五反田バレーアクセラレーションプログラム」では、このイベントは行くべきか、この特典は申し込むべきか、ピッチ登壇に手を挙げるべきかなどと悩んだときには、ひとまず全部やるようにしていました。結果を早急に求めるよりもチャレンジの回数やリレーションの構築が重要で、その中で良い出会いがあればそれを深めていく形でよいと思います。
また、特にDemoDayは気合を入れて真剣に取り組むべきですね。会場にはさまざまな事業会社や金融機関の方がいて、自身の事業についてメッセージを発信できる機会です。私は業界別に提供できる価値を示し、協業のイメージを具体的に提示するよう工夫しました。単なる報告会で終わらせず、会場内の参加者に強いインパクトを残す気概で取り組めば、得るものがより多くなると思います。実際にDemoDey後の交流会では、思いがけない企業の方からも声をかけられたりしました。現在の事業と直接つながりがなさそうでも、今あるプロダクトだけでなく、一部の機能を使ってたとえば他業界のBtoBサービスに転用するといった展開も将来的にあり得ると伝えるようにしました。せっかくいただいたご縁を活かし、長い目でつながり続けていくことが大切だと思います。