【五反田バレーアクセラレーションプログラム アルムナイ特集】産前から夫婦協働で家事・育児に取り組める仕組みづくりで、新しいファミリーの価値観を創る株式会社ハハカラ代表にプログラムでの成果や今後の展望について聞いてみた。
「子育て革命で、親の人生が輝き続ける社会を創る」というミッションのもと、出産前から夫婦協働で家事・育児に取り組めるためのサービスを個人・法人向けに展開している株式会社ハハカラ。その事業の概要と、2023年に参加した「五反田バレーアクセラレーションプログラム」で役立ったこと、その後の事業展開について、代表取締役の片田櫻子さんに聞きました。
(ハハカラの軌跡)
2021年3月 創業
2023年9月~2024年3月 五反田バレーアクセラレーションプログラム4期 参加
2023年10月 サービス名を「Wedoo」から「OYA.NOTE」へ改称
2023年11月 五反田バレーアクセラレーションプログラムのパートナー企業である東急株式会社が品川区大井町で運営するPARK COFFEEでイベントを開催
(プロフィール)
片田櫻子さん 株式会社ハハカラ 代表取締役
早稲田大学商学部卒業後、株式会社IHIに入社し、社会基盤から人々の生活を改善することを目指して活動。その後、ECアプリのスタートアップに参画し、東南アジア展開の一環としてインドネシアに1年半滞在。ユーザーヒアリングやカスタマーサポートを通じて、常にユーザーの声に耳を傾け、寄り添う姿勢を貫く。自身が働きながら経験した妊娠・出産・子育ての過程で、女性が多くの負担を背負う現状に課題を感じ、2021年3月に株式会社ハハカラを創業。夫婦がライフイベントの変化に伴うタイミングで女性の負担を軽減し、夫婦協働で家事や育児に取り組むためのサービスを展開している。
マインド醸成、ツール利用、レポート提供の3ステップで法人向けに展開
―まず、ハハカラの事業について教えてください。
片田 櫻子
産前から自分専用の出産準備リストが自動生成され、必要な情報をパートナーにも共有でき、一緒に産前産後の準備や管理が行えるアプリ「OYA.NOTE(オヤノート)」を個人向けに、夫婦間で妊娠出産と家事育児に必要なマインドセットを構築するスキル学習プログラム「OYA.STUDY(オヤスタディ)」を法人向けに提供しています。
さらに、所属社員のOYA.NOTEの利用実績データを元に、家事育児の夫婦の負担割合や活動傾向が分かる分析ツール「OYA.SURVEY(オヤサーベイ)」も提供を始めています。
私自身が8年間のサラリーマン生活のなかで結婚・出産、その後の転勤生活もあって、家事育児全般が何となく女性側に偏る経験をし、分担比率の不均衡によってキャリアをセーブしてしまうのはもったいないという考えから、こうした仕組みがあればという思いで開発しました。
―現在注力されているのは、どのようなことですか?
片田 櫻子
「OYA.プログラム(オヤプログラム)」として、今は法人向けに注力して提供しており、第1段階ではマインドセットの構築を重要視しています。OYA.NOTEを運用して1年以上経ちますが、やはり本人たちのマインドセットがしっかり醸成されていないと行動変容につながらないと分かりました。そのために、夫婦協働をするメリットやしなければいけない現状、日本の家族のあり方、しなかったときのデメリットなどを伝え、成功例を示して自分たちとの差分を考えてもらう教育コンテンツを作ったうえで第2段階としてOYA.NOTEを使ってもらいます。そうして利用実績や行動動向からデータ集計を行い、トレンド化したものを企業にレポート提供するという3段階を行っています。
―企業への導入実績を教えてください。
片田 櫻子
有償で使っていただいているのが2社あり、それぞれ、その企業が主催するアクセラレーションプログラムに参加したのがきっかけです。もう1社、五反田バレーアクセラレーションプログラムでは商工会に紹介いただき、そこから品川区に本社のある社員数500名以上の中堅企業にも導入されています。いずれも、OYA.STUDYによる啓発から入ることで、いきなりツールを提案するよりもスムーズに利用いただいています。
研修時のピッチに対する受講者仲間からのアドバイスが、今も指針に
―創業されたのは2021年3月とのことですが、2023年の「五反田バレーアクセラレーションプログラム」に応募された理由を教えてください。
片田 櫻子
BtoCの個人ユーザーからの反応は良好で、次のステップとしてBtoBを検討していたんです。それでOYA.NOTEの福利厚生としての導入を考えていたので、パートナー企業とつながれる可能性に期待しました。
―プログラムに参加して得られたことはありましたか?
片田 櫻子
実際にいろいろな品川区の企業につながることができました。自分でドアノックするのは難しいくらいの大企業やダイバーシティ推進企業からフィードバックをもらえたり、ディスカッションできたことがサービス開発に大変役立ちました。
具体的には、9月のKick-Offの場でパートナー企業の担当者の方々と名刺交換ができ、後に5~6社とミーティングを設定いただきました。その際は各企業の窓口の方がサポーティブで、Kick-Offやその際の名刺交換でお話した当社の事業内容を、人事部ダイバーシティ室などにしっかり伝えてもらえており心強かったです。
また、東急株式会社が大井町で運営するコミュニティスペースの「PARK COFFEE」で11月にマタニティ夫婦向けの交流会を開催しました。Kick-Offで名刺交換したときにPARK COFFEEでイベントをやりたいと伝えたところ、その場で了承をいただき、あとは現地に行って日程を詰めるだけでした。集客についてはPARK COFFEEでもインスタで告知してくれて有難かったです。
そんな風に皆さんサポーティブで、学研やセガサミーの担当者とは今も連絡を取らせていただいています。当社サービスをアップデートした際などに連絡して、ミーティングを持たせていただくなどしていますね。
―プログラムの特典や支援策で役立ったものはありましたか?
片田 櫻子
SHIPやTUNNELTOKYOなど、コワーキングスペースをいろいろ活用させてもらいました。もともとは自宅で作業することが多く、創業して4年になりましたが、久しぶりに周りの人が仕事しているリズムのなかで気持ちを切り替えられ、刺激になりました。そうした環境で仕事がはかどったりモチベーションが高まるのを体験でしたので、いつかはオフィスを持ちたいという気持ちになれました。
―研修で役立ったことがあれば教えてください。
片田 櫻子
全6回の研修時に毎回、受講者2名がグループメンタリングとして5分間ピッチを行ったのですが、私は11月の第3回目の研修で登壇しました。そのときに皆から意見やアドバイスを書いてもらった、たくさんのふせんを今もずっと手帳に貼っているんです。当時は女性目線のプロダクトになっていましたが、男性目線による新鮮な意見が聞けました。通常インタビューする相手は、男性も既にモチベーションが高くて家事育児をいろいろ行っていますが、できない理由がある人たちから、どうすれば活用できるかについてアイデアがもらえたのが良かったです。その言葉が書かれたふせんを1つ1つ見て、指摘された部分が改善できているかを定期的に振り返っています。
投資家や連携可能性のある企業に向けて行うピッチとは異なり、同世代の近しいフェーズの起業家に意見を求めるためにピッチが行えたのは、このプログラムならではですね。
―そのほか、印象に残っていることはありますか?
片田 櫻子
研修ごとにその場で交流会がセットされていたことですね。互いに忙しく、改めて飲み会などを設定するのは難しいですが、あの場で軽食があって、それぞれの事業の進捗や近況報告ができたのが良かったです。いろいろなアクセラレーションプログラムを経験しましたが、受講者同士で仲良くなれるプログラムはあまりないので、印象に残っています。今も月1回は誰かの進捗にリアクションしたり、人事系のことで相談させてもらうなど、このときの縁は大事にしています。
パートナー企業や受講者同士の「縁」を大事に、今もつながる
―ハハカラでは、大学とも連携されているそうですね。
片田 櫻子
OYA.STUDYは拓殖大学政治経済学部の先生と一緒に作成していて、経済合理性と幸福度の2つの観点から夫婦協働の必要性を伝えています。また、幸福度については横浜市立大学商学部の先生の研究プログラムでもOYA.NOTEを活用いただき、経済的貧困とは別に、時間がなくて子どものケアができない家庭の支援に横浜市が取り組んでいくなかで、OYA.NOTEを活用して家庭内業務の見える化と行動変容のサポートを行っています。
大学の教授と連携することで、OYA.NOTEのデータとしての信頼性や転換されるOYA.STUDYの有用性が増すという強みがあります。
―今後の展望はどのように考えていますか?
片田 櫻子
夫婦満足度や可処分時間、分担割合が可視化できることで、今後は社外向けレポートや採用時に社風を表すデータとしても提供できないか、検討しています。このようにいろいろとサービスを構想して、最終的には共働き夫婦に最適化した社会づくりに貢献したいと考えています。
また、資金調達については、今はエンジェルに入ってもらいながらBtoBのビジネスモデル検証をしっかりおこなったうえで融資や調達環境によってはエクイティでの資金調達も考えていきたいと思っています。
―最後に、スタートアップとして成長を目指す人へアドバイスをお願いします。
片田 櫻子
まず、自分が使えるつながりやリソースを全部使えているかどうかを定期的に確認しながら、貪欲にアクセスしてほしいです。こうしたプログラムもどれだけ活用できるかによって満足度や次につながるもの、当人が吸収できるものが変わってくると思います。
私の場合はそもそも目的として、企業や行政とつながりたいというのがありましたが、半年の採択期間が終わって、契約が取れなかったと不満に思うのではなく、その後も連絡し続けたり、何かの機会に「あのときのプログラムで・・・」と声をかけたりすることもできます。同期の受講者に、クライアント候補になりそうな知り合いがいないかと相談したり、ピッチの内容に意見を求めたりもできます。実際にエンジェル投資家を紹介してくれた同期もいました。そこは甘えるし、活用するべき。スタートアップとしての成功を達成するために必要なことを、自分なりに取り逃がさないよう意識してほしいです。
執筆者
取材ライター
久保田 かおる
インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。