アクセラレーションプログラム
受講生インタビュー

2025.3.24

【五反田バレーアクセラレーションプログラム アルムナイ特集】画像を使わない骨格データで、高齢者の日常生活を見守り&取得データで未病対策を図る株式会社きづなろ代表にプログラムでの成果や今後の展望について聞いてみた。

プライバシーに配慮した自立支援ツールとして、骨格だけを抽出するセンサーの見守りデバイスを開発している株式会社きづなろ。その事業の概要と、2023年に参加した「五反田バレーアクセラレーションプログラム」で役立ったこと、その後の事業展開について、代表取締役の大槻知史さんに聞きました。

(きづなろの軌跡)
2023年5月 創業
2023年9月~2024年3月 五反田バレーアクセラレーションプログラム第4期 参加
2023年10月 News PicksのWebコンテンツ「メイクマネーサバイブ」でホリエモンなどの投資家にピッチ&ディール成立

(プロフィール)
大槻知史さん 株式会社きづなろ CEO/CTO
関西学院大学経済学部で経済数理モデル研究を行い、卒業後は銀行・生保など金融エンジニアに。その後、防犯カメラ解析に従事して、2023年5月、株式会社きづなろを創業。

 

見られている感なしに、骨格データで日常動作をデジタルデータ化

 

―まず、きづなろの事業について教えてください。

大槻 知史

高齢者の見守り装置として、骨格データのみで日常生活動作を観察できるセンサーデバイスを開発しています。介護施設を中心に、見守るための防犯カメラやベッド・ドアに設置するセンサー、ウェアラブルデバイスなどはありますが、見られている感やプライバシーの点から嫌がられたり、肝心なときに身につけていなかったといった問題がつきものです。高額で個人宅にはつけにくいというのもあるでしょう。
当社のデバイスは画像を使わず、姿勢や動作を即時に解析し、骨格のみの棒人間のような形で観察します。そして独自のアルゴリズムで転倒かどうかを判別し、家族やコールセンターに送信。また、日常動作をデジタルデータ化でき、介護予防に役立てたり、運動機能の衰えといった兆候を検出して対策を支援します。ユーザーにとっては、名刺サイズのものを壁に貼るだけなので気になりづらいのも利点です。

―ビジネスモデルはどのように考えていますか?

大槻 知史

離れて暮らす親の見守りのために個人宅で使っていただくイメージで、サブスクで1台あたり月2000円としています。そして、転倒が発生しやすい場所の75%が居間、それ以外が玄関、廊下で、この3ヵ所で9割以上になるので、3台設置すると月6000円になります。このサブスクでの提供は2025年9月頃から本格的に始める予定です。
また、地方のガス会社と協業の話を進めているんです。ガス会社というのは法律で24時間365日の保安義務を負っており、ガス漏れなどの緊急時に駆けつける体制を組んでいます。その体制を活かすための収益機会として、当社の駆けつけ対応ニーズがマッチするのです。そこで高齢者住宅へのヒアリングを行ったほか、東京都のスタートアップ社会実装促進事業プログラムでも実証実験を行いました。今はそれらの意見をふまえてUIの改善やアプリの制作を進めています。

初めて参加したアクセラレーションプログラムで、伝わるピッチ技術を習得

 
―2023年度の「五反田バレーアクセラレーションプログラム」に応募された理由を教えてください。

大槻 知史

会社を設立するならオフィスは五反田にして、五反田バレーに入りたいと思っていました。そうして創業したのが2023年5月で、プログラムについても五反田バレーを通じて知りました。まだ事業や今後の方向性などが固まりきっていない段階でしたので、ブラッシュアップしていくなかで指導を受けられるチャンスだと思い、応募しました。

―実際に参加されてみて、役立ったことはありましたか?

大槻 知史

ピッチ経験を数多く積めたことですね。Kick-OffDemoDayでは受講者全員がピッチを行いますが、それ以外に毎月1回の研修のときも、有志の2~3名が他の受講者に向けてピッチを行って、質問やアドバイス、意見交換などを全員で行うのです。また、有志参加のイベントとして行われた資金調達相談会でもVCや金融機関を前に3分間のピッチができ、投資家からの質問を受け、最後に希望するVC・金融機関と個別相談が持てたため、ピッチの内容がどれだけ伝わったか・伝わっていないかが分かり、投資家から求められるポイントも知ることができました。
もともと私自身、前職で社内向けに説明会を行ったりはしていましたが、私の事業を全く分かっていない人にゼロから説明するのは、このプログラムが初めてでした。金融機関の文化ではスライドが文字だらけになりやすく、最初に作ったスライドを見ると本当に文字が多い。そうした点を徐々に修正して、ピッチ自体をブラッシュアップしていくことができました。

―資金調達については、かなり意欲的に考えられていたのですか?

大槻 知史

その時点ではソフトウェアはできていましたが、ビジネスや実証実験などの実績はまだなかったので、先を見据えてという程度ですね。そろそろ事業計画書を作っておかねばと思ったタイミングで、12月の研修テーマが「スタートアップが知っておくべき投資ラウンドごとの資金調達」だったので、押さえるべきポイントなどを学べてよかったです。
資金調達相談会ではVC4社と個別面談しました。各10分間ですが、VCにより、担当者によっても求めるポイントは異なると思うので、複数に当たることができたのは良い経験でした。実際、説明資料を直すポイントをたくさん洗い出すことができ、だいぶブラッシュアップすることができました。
こうしてこのプログラムでピッチの練習や勉強をさせてもらったので、その後、エンジェル投資家が集まるピッチサークルに参加などもしています。

―そのほか、役立ったことがあれば教えてください。

大槻 知史

受講者間の交流が活発なのが良かったです。研修ごとに交流会がセッティングされていて、フランクに話をすることができました。人間性にも触れられるし、各人がチャレンジしているのが大いに刺激になりましたね。また、スタートアップではあってもテーマや方向性は違ったりするので、ライバルというより、むしろ営業先や資金調達に関する情報交換などで助け合えます。互いに創業期なので、その苦労や工夫についてヒントになることもありました。

創業期で同じように苦労している起業家仲間との出会いは宝

 
―事業について、今後の展望を教えてください。

 

大槻 知史

当社のビジョンは「みんながピンピンコロリの社会を創る」です。その切り口として、日本では見守りが分かりやすいのですが、将来的には未病対策や健康寿命延伸などのリスク管理のためのサービスにしたいと考えています。実際、アメリカなどで脈拍や呼吸などのバイタルサインを非接触で取得する技術や、イヤホン型の脳波検査機器などが出てきているので、それらと連携していきたいですね。
当社が得意なのは、動作の異常や異変を見つけることです。たとえば首の可動域が狭くなったときに、整形外科領域か脳神経外科領域か、他の医療データと組み合わせることで原因を推察できるでしょう。動作の評価についても、たとえば認知症の知見ある医師が見れば、ふらつきや歩幅で早期認知症などと気づくことができます。こうなると、家自体が健康診断装置になるわけですね。健診や認知症検診などに来られない方に対しても、普段の生活の中で兆候に気づける。これが目指す世界観です。

―最後に、スタートアップとして成長を目指す人へアドバイスをお願いします。

大槻 知史

起業して、初めて参加したのが「五反田バレーアクセラレーションプログラム」だったので、スタートアップとして最初の学びをここで得ることができました。ここである程度ピッチの形が固められ、事業のブラッシュアップもできたおかげで次のステップに進めたと感謝しています。当初は、忙しい中で時間を取られて大変だという気持ちもありましたが、時間をかけた甲斐はありましたので、こうした機会をうまく活用してほしいですね。
また、苦労しているのは自分だけではないと勇気づけられるという点でも、参加する意義があると思います。経営者は皆、孤独なものです。事業を一緒に進める仲間がいても、最終的に責任を取るのは自分であり、経営の悩みはなかなか人に言えるものではありません。ときには生成AIを相手に愚痴をいってみたり・・・。それを、ここでは生身の、同じようなフェーズの人たちとフラットに言い合えたので、すごく気がラクになりました。そのような場としても、ぜひ使ってみてください。

執筆者

取材ライター

久保田 かおる

インタビューはリラックスムードで楽しく。原稿では、難しいことも分かりやすく伝えるのがモットーです。

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